本作品のきっかけは、監督ロジャー・ミッシェルがカンヌ国際映画祭で脚本家のハニフ・クレイシとのコラボレーション『The Mother』(03)が上映されたときに端を発する。「そろそろ僕たちは何か他のものをやるときだ」とミッシェルにいわれたクレイシは、温めていた前立腺の手術をする老人についてのアイデアの骨子をミッシェルに渡した。「その老人は自分の性生活のことや、何をしてきたか、いかに生きてきたか、楽しかったことなどを思い出す。いろいろ考えた結果、その老人の過去ではなく現在を語るべきだと考えるようになった」。クレイシのアイデアを気に入ったミッシェルは、脚本を発展させるために毎日会うようになった。「監督からのインプットなしには映画の脚本はつくれない」クレイシだったが、ミッシェルとの仕事は慣れていることもあって、6、7週間をかけて脚本を完璧なものに仕上げていった。クレイシは、年老いたふたりの主人公の長年の友情を、“ふたりのあいだに若い女性を押し入らせる”展開にしていった。
「年齢を重ねるにつれて、高齢者というものに興味を感じ始めた。とりわけ高齢者の情熱については、今まで書いたことがない題材だったが、挑み甲斐のある題材だと思った。そんなおりに谷崎潤一郎の『癇癪老人日記』を読んで魅了されて創作意欲をかきたてられた。そこで死期を迎えたが、誰かにまだ情熱を抱くことのできる男のアイデアにこだわった。生涯を通して情熱は消えないし、最後には妙なかたち、殆ど皮肉なかたちで戻ってくるストーリーだ」と、クレイシは語っている。
クレイシとミッシェルは主人公たちの職業を俳優にすることに何の躊躇もなかった。日頃から俳優たちの力を借りて仕事をしているふたりにとって、生きている限り俳優であり続ける、それほど有名ではない存在は魅力を感じさせるものだった。
「世間の目にさらされて人生を送ってきた男たちのストーリーをつくることは非常に興味をそそられる。常に人の目を意識しながら暮らす、外観だけで世間に判断されることはどんなものだろう。ここにアイデアがさらに広がる要素があった」
そう語るクレイシは、かなり早い段階からミッシェルとピーター・オトゥールの起用を話し合っていた。
「ピーターは明らかに素晴らしい俳優だし、年を取ることや、美男であった若い頃との外見の違いを恐れたり恥じたりはしていない。老いを演じる勇気がある。そうした映画全体をひとつにまとめる、重みのある俳優がなにより必要だった」
最高のキャスティングを得て、ミッシェルは肝に銘じたことがあった。
「ピーターはもちろんのこと、レスリー・フィリップスも有名で、成功を収めている。だが演じるモーリスとイアンは威厳もないし、セレブでも、有名でもない。私はこの違いをはっきりと描く必要があった」
1932年8月2日生まれのオトゥールだが、老齢期の屈辱にはあまり出会っていないという。「僕は年を取ることの残酷さを未だ味わってはいない。それは共演したレスリー・フィリップスもヴァネッサ・レッドグレーヴも同じじゃないかな。不都合、病気。いずれ来るだろうが、僕にはまだ訪れてはいない。なによりも老人の役を演じることは、舞台に限らず俳優には当たり前のこと。若い頃からやっている」。
主人公の若き日の写真は、もちろんピーター・オトゥール自身のもの。俳優としての大いなる才能に加えて、オトゥールがかつて映画史上最も美男の一人であったことは間違いない。プロデューサーのケヴィン・ローダーの母親は「『アラビアのロレンス』以来、ずっとピーター・オトゥールに恋をしている」そうだが、ミッシェルは『アラビアのロレンス』再公開についてのドキュメンタリーのオトゥールの表情が忘れられなかったという。
「ピーターは大スクリーンに映し出された若き日の自分を、問いかけるようにみつめていた。そこには年月が凝縮されていた。その感動が、前妻がモーリスに言うセリフ“まぁ、あなたはなんて美男子だったの”のシーンに結びついている。俳優という存在は、常に恐ろしいけれども巣晴らしい、そうした死すべき運命のナップザックを背負っている」
ピーター・オトゥールが毎シーン出演している作品はここ20年間で初めて。モーリスは明らかにオトゥールをイメージして書いたといわれるなかで、本人は演じているモーリスについて次のように語っている。
「最初から最後まで自分自身の完全性、つまり“性”に忠実な男。それまでの人生で一度も手にしたことがなく、最後まで手にすることはない、若くて可愛い女性には抵抗できないのだ。“天にある鷲の道、岩の上の蛇の道、大海の中にある船の道、男が乙女に向かう道”とは聖書か何かの引用だが、その通りで、乙女は男にとっては偉大な神秘なのさ」
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モーリスの俳優仲間イアンを演じたレスリー・フィリップスは1924年生まれの83歳。「僕は基本的には舞台俳優だが、子供のときからこれまでにおよそ125本の映画に出演してきた。なかには、いまでもテレビで放映されるものもある。そんな風にキャリアは大きなものになり、再び戻ってくる。逆流するものだ」と語るフィリップスは古くからオトゥールとは親交が厚かった。「シリアスなものから軽いノリのコメディまで、あらゆるジャンルをやっている本当の意味でのベテラン」と、気難しいオトゥールから絶賛されるフィリップスはここでも、ミッシェルが「映画にすごい重みを与えてくれた。面白いけれど脆くて、人の心を動かし、何よりリアルだ」と評するごとく、絶妙の演技を披露している。
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モーリスの前妻役にヴァネッサ・レッドグローヴをキャスティングしたミッシェルは、「彼女はこの役を演じるには大物過ぎるのだが、上映時間にすると数分という出演シーンとてつもない重みをもたらせてくれた」と賞賛する。製作のローダーも「彼女は最高の女優のひとり。焼けるように真実の演技で、人生全体と失敗に終わった結婚についてきちんと伝えている」と語っている。
配給:ヘキサゴン・ピクチャーズ/シナジー 宣伝:アニープラネット (C)2006 Venus Pictures Ltd / UK Film Council / Channel 4 Television Corporation